こんな記事を書いているくらいだからよっぽど暇なんだろうと思われているかもしれませんが、遠藤だっていろいろ忙しく生きているのです(おだやかな逆ギレ)。
それにしても、ひとつの演目に対してこんなにじっくり向き合っている団体が他にあるのでしょうか。
ちょっとした思考実験みたいになってます。
そんな団体がひとつくらいあってもいいですよね?(おだやかな逆ギレからの土下座)
前回は、楽太郎くんの話で終わってので、彼の妻たちの話をします。
妻たちというのは、もちろんこのお話が一夫多妻制の設定だったわけではなく、トリプルキャストで同じ役を演じた役者さんが三人いたということです。
この記事を書こうとして思い浮かぶのは『ガラスの仮面』に出てきた、あるエピソードです。
ヒロインの北島マヤが演劇のオーディションを受けることになり、レストランの店内という設定でエチュードをするよう言われます。
課題は客のいない店内で一人の黒服の男が決まった動きをするので、それに合わせて演技をしてください、というもの。
楽太郎くんは、普段からアドリブをまったくやりません。
お笑いのフィールドでも活躍する彼ですから、できないはずはないのですが、演技においては決められたことをきっちりこなすタイプです。今のエチュードでいう「黒服の男」です。
このぶれない夫に、三人の妻たちがどう向き合ったのでしょうか。
ひとりめはこちら。

阿部祐子演じる藤実は「妻」でした。
いや、もともと妻でしょというツッコミはあるかと思いますが、妻らしい妻だったということです。
融通の利かない夫を、奔放な義理の兄ごと受け止める、姉さん女房らしい包容力の高さが持ち味です。

※寄り添う。
このお芝居では、登場人物のほとんどが落ち着きのない人たちでした。
そんななか、唯一落ち着いた雰囲気を持つ彼女は、物語のブレーキ役として存在感を見せてくれました。

※問題点を確認する役回り。
なぜか阿部祐子と楽太郎くんはコンビになることが多く、『聞き耳カフェその1』では逃げた花嫁と式場スタッフ、『聞き耳カフェその3』ではプロポーズに挑む二人を演じてもらいました。
特に「その3」では結婚直前のカップルでしたから、そのまま今回の役につながっていると言えるでしょう。
もともとの相性のよさと、初演でも藤実を演じた経験を活かし、稽古量の少なさをカバーしました。
一方で助演出も兼任し、かなり演出に近いこともやってもらいました。感謝。
正直、演出スキルは自分より高いと思うので、今後もチャンスがあれば力をかしてほしいと思っております。
続いてはこちら。

金子綾香の演じる藤実は「友達」でした。
人間関係の安定性でいえば夫婦よりも上かもしれません。
初演の藤実である阿部祐子の「妻らしい妻」を基本形とすると、金子さんの演じた藤実は妻というより「つきあいの長い友人」という距離感で役作りをしていたように思います。
つきあいが長いといえば、演じる金子さんは、2001年のエンプロ旗揚げ公演『the river −風前の灯』に参加してもらっています。
かれこれ14年のお付き合い。あらためて文字にしてみるとすごい時間経ってますね。
つかずはなれずの関係性でお互いよく続いているもんです。
金子さんのいいところは、「努力しているように見えないのに、ちゃんとできていること」です。
これ、悪口のようですが、かなり褒めています。
逆を考えてみてください。
「努力してますアピールは強いのに全然できていない役者」。これはだめです。
勝手に煮詰まり悲壮感を漂わせている役者がいる稽古場は息苦しい。こういうところでは喜劇は作れません。
稽古場にある程度の緊張感は必要ですが、常に客前に出て自分をさらけ出す役者さんに、緊張感がないはずがありません。
自分の稽古時間でなくても、ほかの藤実の稽古を見て動きの段取りをメモしたり、演出に役作りを相談したり、今回はいつもより努力していように見えましたが、決してまわりを心配させるようなことはありませんでした。

※真剣顔。
意識的にそうしているなら配慮が行き届いているし、無意識だとすれば天性の才能です。どちらにしても得難い能力です。

※常に楽しそう。
頼りになります。今回も付き合ってくれて感謝。
最後はこちら。

後藤貴子の演じる藤実は「恋人」でした。
不安定かもしれませんが、結婚しても恋人のような関係はひとつの理想だと言えます。
楽太郎くんと実年齢が近いせいか、なにもしなくても、どこかいちゃいちゃしている感じがします。

※母親とも仲良くしてほしい。
アネさん気質の強い前の二人とはまったく別の藤実を求められました。
非常に個人的な感覚なので異論反論は甘んじて受け入れますが、後藤貴子は、見た目は確かに「きれい・お姉さん系」ですが、中身は「乙女・女子力系」、演劇現場では「おたく・職人系」という複雑な精神構造を持っています。
ある役者にとっての正解が、どの役者にとっても正解というわけではありません。
見た目がお姉さん系でも、舞台上でアネさん気質が出せるとは限りません。
目の前に正解があるのに、なかなかその正解が使えない。
今回参加した全役者のなかで役作りで一番苦労したのは彼女だと思います。
時間はかかりましたが、なんとか本番に間に合わせてくれました。感謝です。
※こんな距離感もアリ。
というわけで、それぞれ短めにまとめてみました。
短いのには理由がありまして、このチームでおまけ脚本を書いてみました。
「当て書き」をしないという方針でやってきましたが、実際当て書きをしたらどうなるんだろうという実験です。
話的にはそこまで面白くない上に、三人ともよく知ってる方じゃないと伝わらない感じだと思いますが、興味のある方はぜひおつきあいください。
『夕矢と三人の嫁(仮)』
あくまで、内輪向けの読み物ですね。コミックの巻末四コマだと思っていただければ。
実際に上演する機会があってもそんなに面白くないと思います(苦笑)。
ふりかえり記事がなんでもありになってきました。
次は誰をどうやってふりかえろうか。